家でよく見かける小さなハエトリグモは人になつくのか、そもそも飼えるのかといった疑問を抱く方は少なくありません。
本記事では、その気になるポイントを入口に、ハエトリグモが家にいる理由や、動くものをじっと見つめたり近づいたりする行動の背景を、視覚の発達や行動生態の知見を踏まえてわかりやすく解説します。
あわせて、日常の観察や飼育に役立つ実務情報として、適した餌の選び方と与え方、退避用の小さな巣(シルクリトリート)の見つけ方と扱い方、寿命に影響する環境要因や長く健やかに過ごさせるコツまで丁寧にまとめます。
かわいらしい仕草の裏側にある合理的な理由を知ることで、誤解がほどけ、家庭での適切な付き合い方や無理のない飼育のポイントが自然と見えてきます。
この記事を読むことで理解できる内容は以下のとおりです。
- ハエトリグモがなつくと感じる行動の正体
- 家で見かける理由と室内での役割
- 餌や巣や寿命など基礎生態と飼育方法
- 代表的な種類の見分けと注意点
ハエトリグモはなつくか真相ガイド
ハエトリグモが家にいる理由
ハエトリグモは益虫?
ハエトリグモはハエを食べる?
ハエトリグモの種類
ハエトリグモの餌
ハエトリグモが家にいる理由

住居でハエトリグモを見かける背景には、生態と住環境の条件が重なっています。
ハエトリグモは造網性ではなく徘徊性で、優れた視覚で小昆虫を目視し、間合いを測って跳躍捕食します。
家屋内は外気に比べて温度・湿度が安定し、コバエやチャタテムシ、ダニ類などの微小な餌資源が発生・滞留しやすいため、効率よく採餌できる場になりやすいのです。
移動中はしおり糸を常時引き、落下時の命綱や復帰経路として機能させます。
ただ近寄ってくるように見える行動は、愛着行動ではなく、前方に発達した前中眼による動体認識と定位反応に基づくものです。
手の動きやマウスカーソルに体の向きを合わせるのは、対象を識別・追尾する視覚反応の結果で、いわゆる「なつく」こととは別物と考えられます。
したがって、出現を不衛生の証拠と断じるよりも、小昆虫が入り込みやすい経路や発生源を点検する合図として捉えると、現実的な対処につながります。
侵入しやすい場所と時間帯
窓サッシやドアの下端の隙間、換気口や配管の貫通部、郵便受けや網戸の破れなどは、餌となる小昆虫の主要な侵入路です。
これらの経路を小昆虫が利用し、その後を追う形でハエトリグモが屋内に定着することがあります。活動時間は日中が中心で、日射のある窓辺や白い壁面など、コントラストが高く視認性のよい面を好んで探索します。
好みやすいマイクロハビタット
台所や洗面所は水気と有機残渣が生じ、コバエやチャタテムシの発生を助長します。
観葉植物周り、排水口周辺、ペットの給餌スペース、調理家電の隙間などは、餌資源と待避空間が同時に存在する典型例です。明るい外壁や手すりのような滑らかな面でも、足先の二爪間の粘着毛によって安定して移動できます。
視覚と行動の基礎知識
前列の4眼のうち、特に前中眼は解像度と色覚に優れ、距離評価と獲物への最終ジャンプに大きく寄与します。後列の小型眼は周辺視と動き検知に関わり、接近する物体への素早い体軸回転を助けます。
このため、人の接近や手振りに対して「向き直る」「身構える」といった行動が顕著で、擬人的に「こちらを見つめる」「懐いている」と解釈されがちです。
現れにくくする環境管理のヒント
- 生ゴミや排水口のバイオフィルムをこまめに除去し、コバエの発生基盤を断ちます
- 窓・網戸・サッシの隙間、配管貫通部のシーリングを補修し、小昆虫の侵入を抑えます
- 夜間の室内外の照明コントラストを弱め、光に誘引される小昆虫の集積を減らします
- 観葉植物用の受け皿の水は溜めっぱなしにせず、土表面も乾湿のメリハリをつけます
以上のように、ハエトリグモの屋内出現は、餌資源・侵入経路・微気候という三要素の結果と考えられます。愛玩目的での接触を強めるより、発生源管理と住環境の見直しが、出現頻度のコントロールと安全な共存に直結します。
ハエトリグモは益虫?

室内で見られる多くの種は、コバエや小さなゴキブリ幼虫、ダニなどを捕食します。
刺す、かむなどの積極的な攻撃性は低く、人への健康被害は一般に報告が限られています。
毒に関しては、クモ全般が捕食に使う毒を持つものの、人に強い症状を与える種は限られているとされています。
要するに、室内のハエトリグモは害虫抑制の一助になりやすい存在で、無理に駆除せず共存を選ぶ家庭も少なくありません。
ただし、巣を張る別科のクモや外来の毒性種(例として話題に上る種)とは見分けが必要です。
屋内での対処は、過度な薬剤散布よりも、餌資源となる小昆虫の発生源管理や清掃、隙間封鎖が結果的に効果的です。
ハエトリグモはハエを食べる?

名前の通り、飛ぶ小型のハエ類は主要な餌になり得ます。
獲物を視認すると間合いを測り、素早い跳躍で捕獲します。
網で待ち構えるのではなく、日中に活発に歩き回って探索するため、窓辺や明るい壁に留まるハエを狙いやすい環境が好相性です。
視覚刺激に反応するため、人が振る餌(ピンセット先のショウジョウバエなど)にも素直に飛びつくことがあり、これが「なつく」と誤認される一因になります。
ハエトリグモの種類

国内の住環境で目にする機会が多いのは、アダンソンハエトリ、チャスジハエトリ、シラヒゲハエトリ、ネコハエトリなどです。
オスとメスで色や模様が異なる性的二形の強い種も多く、見た目の多様性も魅力の一つです。以下に、家やその周辺で見かけやすい代表種の基本情報を整理します。
| 種名 | よくいる場所の例 | 体の特徴のヒント | 目安の体長 |
|---|---|---|---|
| アダンソンハエトリ | 室内の壁・天井・窓辺 | オスは黒地に白帯、メスは茶系 | 約5〜9mm |
| チャスジハエトリ | 外壁・室内・公園の構造物 | 背に縦筋模様、やや大きめ | 約9〜11mm |
| シラヒゲハエトリ | 外壁・フェンス | 体側の白毛が目立つ | 約7〜10mm |
| ネコハエトリ | 草地・手すり・屋外 | 丸みのある体で機敏 | 約7〜8mm |
観察では、正面の大きな前中眼に注目するとハエトリグモ科らしさが一目でわかります。
細長くアリに似るアリグモ属も身近ですが、こちらもハエトリグモの一員で、行動は同様に視覚主導です。
ハエトリグモの餌

野外では、体格に見合う小型の節足動物を機敏に追跡して捕らえます。
代表的な餌はショウジョウバエやユスリカ、小型の蛾、チャタテムシ、ダニ類、ゴキブリの極小幼虫などで、いずれも動きが活発なため、ハエトリグモの優れた視覚とジャンプ力が活きます。
視覚による獲物識別と距離測定に長ける性質は研究で繰り返し示され、低照度下でも獲物と同種個体を見分けられる種があることが報告されています。(出典:Journal of Experimental Biology「Dim-light vision in jumping spiders」)
飼育下では、生き餌が基本です。
サイズや運動性、管理のしやすさを考慮して、以下のような選択肢が現実的です。
腹部の張り具合は摂餌状況の目安になり、ぺたんと凹むようであれば給餌量や頻度の見直しが必要です。
満腹後は反応が鈍るため、食べ残しがあれば放置せず速やかに取り除きます。野外で採集した虫は、農薬・病原体の持ち込みリスクがあるため避けるのが無難です。
| 生き餌の種類 | 推奨サイズの目安 | 長所 | 注意点 | 給餌頻度の目安 |
|---|---|---|---|---|
| 無翅ショウジョウバエ(改良系統) | ハエトリグモ腹幅の0.5〜1倍 | 管理しやすく逃げにくい | 密度が高いと容器が汚れやすい | 幼体は毎日〜隔日、成体は3〜5日に1回 |
| コオロギ極小幼体(ピンヘッド) | 腹幅の0.5〜0.8倍 | 入手が容易で嗜好性が高い | 噛傷リスクあり。食べ残しは即回収 | 幼体は隔日、成体は3〜7日に1回 |
| レッドローチ小幼虫 | 腹幅の0.5〜1倍 | 丈夫で管理しやすい | 床材に潜りやすい。過大サイズは不可 | 幼体は隔日、成体は3〜7日に1回 |
| ミルワーム極小(脱皮直後) | 頭幅の0.5〜0.8倍 | ストックが容易 | 皮膚が硬くなった個体は不向き | 補助的に週1回程度 |
給餌のポイント
- 動きで狩猟スイッチが入るため、ピンセットで軽く揺らして視界に入れると反応しやすくなります
- 初めて与える餌は小さめから開始し、捕食に支障がないことを確認して徐々に調整します
- 1回量は「腹幅と同等」程度を上限の目安とし、連続給餌で腹部が過膨張しないよう間隔を空けます
- 幼体は代謝が高いため成体より頻度を高めますが、拒食や脱皮前兆が見られたら無理に与えないで様子を見ます
- フィーダーの栄養価を高めるガットローディング(コオロギ・ローチに新鮮な野菜や専用フードを与える)は有効です
水分管理と通気
ハエトリグモは小型で体内水分の変動に影響を受けやすいため、給餌と並行して適度な水分供給が欠かせません。実践しやすい方法は次の通りです。
- 薄い皿に脱脂綿を敷き、水を含ませて設置する(溺水リスクを抑えやすい)
- 床材やキッチンペーパーを軽く霧吹きで湿らせ、容器壁面に水滴が残らない程度に保つ
- 連日べたつく状態は過湿です。カビ・ダニ増殖や呼吸環境の悪化につながるため、側面・天面の通気孔を十分に確保し、湿り気は「点」で与えて「面」の結露を避けます
- 乾燥気味の季節は、週数回の軽いミストと水分パッド交換を習慣化します
避けたい餌・与え方
- 大きすぎる獲物(体長や顎力が勝るコオロギなど)は逆に攻撃されるおそれがあります
- アリやヒメアリは蟻酸や集団反撃のリスクがあり、基本的に避けます
- ミルワームは硬化後の個体や大型個体を与えると口器が届かず摂食失敗が増えます
- 静止した死餌は反応が出にくいため、どうしても用いる場合はピンセットで微振動を与えるなど工夫が必要です
体調モニタリングの着眼点
- 腹部の張り:凹みが続くのは摂餌不足、極端な膨張は与えすぎのサインです
- 活動性:給餌直前に反応が鈍い、姿勢が低いまま動かない場合は過湿・低温・脱皮前など環境要因を点検します
- 排泄物:白〜灰色の斑点状の汚れが増えたらペーパー交換と通気改善を行います
これらを踏まえれば、野外の食性に近い形で安全かつ安定した給餌が可能になります。給餌の基本は「適正サイズ」「過剰ストックを避ける」「水分は点で与え、容器は常に風通しよく」です。
ハエトリグモがなつくと感じる理由
ハエトリグモはゴキブリを食べる?
ハエトリグモの巣
ハエトリグモの寿命
ハエトリグモの飼育方法
ハエトリグモはゴキブリを食べる?

体格と個体差はありますが、小さなゴキブリ幼虫であれば捕食対象に含まれることがあります。
夜行性の大型徘徊性クモ(アシダカグモなど)と比較すると、ハエトリグモの捕食範囲は小型に寄ります。
室内の害虫対策として期待しすぎると失望につながるため、ハエやコバエなどの小昆虫中心の捕食者と捉えると実情に近いです。
要するに、目に見えてゴキブリを激減させる“専任ハンター”ではなく、軽微な小昆虫圧を下げる側面支援役と考えるとバランスが取れます。
衛生管理は清掃・侵入経路の封鎖・餌資源の除去が土台であり、クモに任せる発想は避けるべきです。
ハエトリグモの巣

獲物捕獲のための大型の幾何学的な網は張りませんが、休息・脱皮・産卵の局面では薄い糸膜を重ねた袋状の退避巣(シルク・リトリート)を作ります。
家屋内では、家具の背面と壁のすき間、カーテンの折り目、窓枠の角やサッシのレール、額縁の裏側など、三方が囲まれて振動が伝わりにくい狭小空間が選ばれやすい傾向があります。
巣は白〜乳白色のマットな質感で、外見上は綿埃と紛れやすく、サイズは数ミリから1センチ弱の小型が一般的です。
産卵時には内部に卵嚢を固定し、ふ化・子グモの分散までの期間をこの退避巣で過ごします。
移動時に用いるしおり糸(ドラグライン)は、落下の命綱に加えて、跳躍・着地の安定化にも機能します。
跳躍の最中に高性能な絹糸を迅速に吐出し、空中姿勢の微調整やスリップ防止に役立てる動作が報告されています。
この性質により、滑りやすい窓ガラスやタイル面でも活動範囲を広げられます。
以下は、造網性のクモとハエトリグモの「糸の使い方」の違いを要点で整理したものです。
| 比較項目 | 造網性クモ(例:コガネグモ科) | ハエトリグモ(ハエトリグモ科) |
|---|---|---|
| 主目的 | 獲物捕獲用の粘着網 | 退避・休息・産卵の巣、移動時のドラグライン |
| 配置 | 開放空間に張る定置網 | 狭隙の袋状巣、移動経路に細い糸 |
| 可視性 | 大きく目立ちやすい | 小さく目立ちにくい |
| 行動様式 | 網に待機して待ち伏せ | 歩行・跳躍で能動探索 |
この習性理解は、室内で糸の塊がほとんど見当たらないのに個体を見かける理由の説明になります。
巣は小型で視認しづらい一方、日中の索餌は壁面や手すりなどの開けた面で行うため、人目につきやすく「近寄ってくる」「見つめてくる」といった印象を受けやすくなります。
撤去する際は、乾いた綿棒や紙片でそっと剥がし、卵嚢らしき膨らみがある場合は屋外の植栽の陰へ移設するのが無難です。
掃除機での吸引は卵嚢の破損や個体の負傷を招きやすいため避け、再付着防止にはカーテンの折り目や額縁裏の埃・糸残りを拭き取っておきます。
ハエトリグモの寿命

寿命は種・性別・環境要因で幅があり、一般にはおおむね一年前後が目安とされています。
多くの種で雌が雄より長生きしやすく、雄は成熟後に行動範囲が広がる分、捕食リスクや消耗が大きくなりがちです。
自然環境では、秋までに亜成体となり、越冬後に成熟する生活史が見られることがあり、室内個体は比較的安定した温度・餌へのアクセスにより活動期間が延びる場合があります。
寿命に影響する主な因子は以下の通りです。
- 温度:極端な低温は活動量と摂食量を下げ、高温は脱水・代謝亢進による消耗を招きます。極端を避け、季節に応じた緩やかな変動が無難です
- 水分:小型ゆえに体内水分の揺らぎに敏感です。過乾燥は活動低下・拒食の誘因となり、過湿はダニ・カビの増殖や呼吸環境の悪化を引き起こします
- 餌条件:適正サイズの生き餌を過不足なく確保できるかが、成長速度と体力維持に直結します
- ストレス:過度な接触、頻繁な容器振動、強い光や連続した覗き込みは逃避反応を誘発し、捕食効率や脱皮成功率を下げる要因になります
- 脱皮成功:脱皮前後の静穏・通気・適湿の確保は、脚欠損や不全を防ぎ、以後の採餌と寿命に波及します
長く健やかに過ごさせるための実践ポイントとして、過密飼育を避けて共食いを防ぎ、退避巣を作れる薄い紙片や葉片状の隠れ家を用意し、給餌は腹部の張り具合を基準に少量頻回で調整すると安定します。
観察は短時間にとどめ、脱皮徴候(動きの鈍化、腹部の色調変化、巣内滞在時間の延長)が見られる間は干渉せず、静かな場所に置きます。これらの積み重ねが、結果として活動期間の延長と状態の維持につながります。
ハエトリグモの飼育方法

小型の個別容器(通気孔付きのプラカップやタッパー)に収容し、逃走防止を徹底します。
床材は必須ではありませんが、キッチンペーパーを敷くと清掃と保湿管理が容易です。
直射日光を避けた明るい場所に置き、適度に湿らせた脱脂綿などで給水します。
生き餌は体幅に見合う小ささを選び、数日に一度で十分です。拒食が続くときは脱皮前の可能性が高く、刺激を控えます。
飼育時のミニチェックリスト
- 1容器1個体で共食いリスクを回避します
- 通気と保湿のバランスをとり、カビやダニを抑えます
- ピンセット給餌に反応するが、馴致ではなく餌反応です
健康面での記述は一般情報の域を出ず、公式ガイドや専門書では温湿度の適正範囲について多様な記載が見られるとされています。飼育種や個体差に合わせ、過不足のない調整が求められます。
ハエトリグモがなつくのは本当?餌・巣・寿命・飼育完全ガイド:まとめ
この記事のまとめです。
- 視覚が鋭く動くものに反応し近づく行動が多い
- 近寄る仕草は餌反応であり懐くとは言い難い
- 室内出現は小昆虫がいる環境に引き寄せられる
- 人の健康被害は限定的とされ無理な駆除は不要
- ハエやコバエ中心に小昆虫を能動的に捕食する
- ゴキブリ成虫の駆除力には過度な期待は禁物
- 網で待ち伏せせず袋状の休息用の巣を作る
- しおり糸で落下を防ぎ移動の安全性を高める
- 寿命は一年前後とされ環境で変動しやすい
- 飼育は小型個別容器と通気保湿の管理が要点
- 生き餌は体格に合うサイズを少量高頻度で
- 脱皮前は拒食が起きやすく刺激を避けて観察
- 共食い防止のため同居は行わないことが基本
- 清掃と侵入経路の封鎖が害虫対策の土台になる
- ハエトリグモがなつくという印象は誤解と行動特性の産物
