都会のマンションやオフィスビル周辺で、鳩のフン害や騒音に悩まされるケースは後を絶ちません。こうした深刻なトラブルに直面したとき、「鳩を食べる動物を天敵として利用できないか」「都会にはカラスや猫といった鳩を食べる動物がいるはずなのに、なぜ鳩は減らないのか」と疑問に思うのは当然のことです。
さらに、マンションのベランダに突如として残された鳩の死骸を発見し、その犯人や安全な処理方法を知りたいと、切実にベランダの鳩の死骸トラブルについて調べている方もいるでしょう。
この記事では、生物学的な食物連鎖の仕組みから、都会の鳩が急増するパラドックス、そして天敵の習性を応用した科学的で効果的な鳩の対策グッズの選び方まで、プロの防除の視点から徹底的に解説します。
この記事を読むことで理解できる内容は以下のとおりです。
- 鳩の天敵となる猛禽類の凄まじい捕食能力と都会で死骸が残る理由が分かります
- 都会のカラスや猫がなぜ生きた鳩を積極的に襲わないのか、その生態的謎が解けます
- ベランダで鳩の死骸を見つけた際に、感染症を防ぎながら安全に自己処理する手順が理解できます
- おもちゃの天敵グッズが効かない科学的理由と、プロが推奨する防除技術の選び方が身に付きます
鳩を食べる動物の生態と都市部の天敵関係
自然界における鳩は、多くの肉食・雑食動物にとって格好のターゲットです。ここでは、鳩を主食とする本格的な捕食者の生態と、本来は天敵であるはずの動物たちが都会の環境下でどのように行動しているのか、そのリアルな生態系を解き明かしていきます。
鳩の天敵となる猛禽類の捕食特性

野生の生態系において、中型鳥類である鳩(ドバトやキジバト)の絶対的な天敵となるのが、ハヤブサやオオタカに代表される肉食性の猛禽類(もうきんるい)です。彼らは空中で獲物を捕らえることに特化した、進化の極致とも言える身体構造を持っています。
特にその「眼」の能力は凄まじく、人間の約8倍から10倍とも言われる圧倒的な視力と高い解像度を誇り、数キロメートル先を飛ぶ鳩の動きを正確にロックオンすることが可能です。また、頑丈で鋭く湾曲した嘴(くちばし)と、獲物の肉体に深く食い込んで致命傷を与える強靭な趾(あし)と鋭い爪を兼ね備えています。これらの武器により、飛行中の鳩を空中で捕捉し、瞬時に気絶または即死させることが可能なのです。
自然界における被食・捕食関係は、獲物のサイズや生息環境によって細かく棲み分けられています。その関係性を整理したのが以下の対応表です。
| 被食者分類 | 代表的な被食者種 | 捕食者となる主な猛禽類 | 捕食特性 |
|---|---|---|---|
| 中型哺乳類 | ノウサギ など | クマタカ、イヌワシ | 強靭な握力と翼で、地上の重い哺乳類を急襲・捕獲する。 |
| 小型哺乳類 | 野ネズミ、家ネズミ など | ノスリ、フクロウ | 優れた聴覚と静粛飛行能力を活かし、夜間に急襲する。 |
| 中型鳥類 | ハト(ドバト、キジバト) | ハヤブサ、オオタカ | 空中での高速追跡、高高度からの急降下で瞬時に撃墜する。 |
| 小型鳥類 | スズメ、メジロ など | ハイタカ、チョウゲンボウ | 障害物の多い林間や市街地を俊敏に飛び回り、追い詰める。 |
| 爬虫類・両生類 | ヘビ、トカゲ、カエル など | サシバ | 里山や水田周辺を旋回し、地上を這う生物を滑空して捕らえる。 |
このように、鳩のような機動力のある中型鳥類を専門的に狩るには、超一流の飛行技術と殺傷能力が必要不可欠であり、それを一手に担っているのがハヤブサやオオタカなのです。本来、自然界の食物連鎖においては、これらの猛禽類の存在が鳩の個体数を一定に保つための大きな制御弁として機能しています。しかし、近代の都市部においては、このような生態系のバランス維持システムが大幅に変容しているのが実情です。(出典:環境省『野生鳥獣の保護及び管理』)
ハヤブサが鳩を狩る驚異のスピード

猛禽類の中でも、特に鳩の天敵として名高いのがハヤブサです。ハヤブサは現存するすべての鳥類の中で「世界最速」の飛行能力を誇ります。その驚異的なスピードを実現しているのは、徹底的に空気抵抗を減らすよう設計された流線型の体躯、強靭な胸筋、そして高速飛行時でも呼吸困難に陥らないよう、鼻孔(鼻の穴)の内部に備わった特殊なコブ状の突起構造です。この航空力学的なアドバンテージにより、他の追随を許さない圧倒的な空中戦を展開します。
彼らの狩りは、遥か高所の上空を旋回しながら獲物を見つけるところから始まります。ターゲットをロックオンすると、ハヤブサは翼を体にぴったりとすぼめて、まるで一発の弾丸や戦闘機のような形状になり、重力を味方につけて急降下(ストゥープ)を開始します。このときの最高速度は、極限状態では時速300kmから、場合によっては時速380km以上に達すると言われており、まさに鳥類界の最速スピードキングです。
この極限状態の超高速から繰り出される強靭な脚のキック(空中での殴打撃)は強烈で、ターゲットとなった鳩の首の骨を瞬時に破壊し、空中から一撃で蹴り落とすか、あるいはわしづかみにしてその激しい衝撃で即死させます。鳩の逃走速度も決して遅くはありませんが、ハヤブサの次元の違うアプローチスピードの前にはなす術もありません。この絶対的な捕食技術こそが、鳩にとってハヤブサが生涯最大の天敵であり、克服できない絶対的な恐怖の対象である証拠なのです。
ベランダに残された鳩の死骸の犯人

マンションのベランダや商業施設の軒先などで、突如として無残な鳩の死骸が発見されることがあります。外傷のない綺麗な状態であれば、老衰による自然死や感染症などの病死が考えられますが、頭部や胸部が無惨に食い荒らされている場合、高確率で「天敵による捕食行動」が原因です。その犯人をプロの視点からプロファイリングしてみましょう。
もし、死骸の周囲に鳩の羽毛が大量かつ放射状に散乱しており、頭部や胸肉が鋭利にむしり取られ、骨がバキバキと折られている痕跡(食痕)があるなら、それは十中八九、ハヤブサやオオタカなどの猛禽類の仕業です。彼らは獲物を捕食する際、羽毛を非常に器用に一本ずつ引きちぎってから、栄養価の高い胸肉や内臓を好んで食べます。この整然としつつも凄惨な解体の痕跡こそが、猛禽類がその場に関与した決定的な証拠となります。
プロが教える「料理場」の習性
ハヤブサなどの猛禽類には、捕獲した獲物をその場ですぐ食べるのではなく、他の捕食者(カラスなど)に邪魔されない安全で見晴らしの良い高所へ持ち帰って解体する習性があります。この場所を専門用語で「料理場」または「調理場」と呼びます。都会においては、マンションの高層ベランダやエアコン室外機の裏、ビルの屋上、看板の隙間などが都合の良い料理場に選ばれやすく、これがベランダで凄惨な死骸が突如として見つかる直接の原因となっています。
一方、周囲が非常に汚れており、引きちぎられた羽毛や肉片が広範囲に散らかり、食い散らかされ方が荒々しい場合は、カラスや野良猫による仕業の可能性があります。カラスは雑食性であり、猛禽類のように綺麗に羽を処理する技術がないため、つつき回して引きちぎるような跡を残します。
野良猫の場合は、仕留めた獲物を植木鉢の陰などの物陰に引きずり込み、周囲に泥や足跡を残すことが特徴的です。死骸の状況を冷静に観察することで、あなたのベランダにどのような「天敵」が侵入したのかを高い精度で特定することができます。
カラスや猫が都会の鳩を襲わない理由

「都会にはカラスや猫がたくさんいるのに、なぜ鳩は平然と増え続けているのか?」という疑問を抱く人は多いでしょう。生物学的な天敵リストにはカラスや猫が並びますが、都会のコンクリートジャングルにおいては、この関係性に劇的な変化が起きています。
これを生態学では「食物連鎖のデカップリング(脱結合)」と呼びます。デカップリングとは、本来密接に結びついているはずの「捕食者と被食者」の関係性が、環境因子の変化によって切り離されてしまう現象を指します。
カラスや猫が都会の鳩を襲わなくなったのには、主に3つの明確な要因があります。
1. 代替エサの飽和
都会には人間が排出する高カロリーな生ゴミ、駅前や繁華街に放置された食べ残し、公園での意図的なエサやり、飼い猫用に屋外に置かれたキャットフードなどが至る所に溢れています。カラスも猫も、本来は非常に効率的に栄養を摂取しようとする動物です。自力で動くターゲットを追いかける必要がないほど、簡単かつ高栄養なエサが周囲に満ち溢れているため、わざわざ労力を割く必要がありません。
2. エネルギー代謝の最適化
俊敏で警戒心が強い生きた鳩を追いかけて狩るには、膨大な運動エネルギーを消費します。さらに、必死に抵抗する鳩に突つかれたり、暴れられたりして、自らが怪我を負うリスクも伴います。動物界において「怪我」は即、死に直結する死活問題です。
したがって、動かない生ゴミを漁ったり、差し出されたキャットフードを食べたりする方が、圧倒的にローリスクかつハイリターンです。動物たちはわざわざ生存リスクを冒してまで生きた鳩を襲う理由を完全に失っているのです。
3. 棲み分け(時間・空間)の不一致
カラスは夜間、森林や大きな都市公園の緑地などの「ねぐら」に大集団で集まって眠りますが、都会の鳩は夜間、マンションのベランダの軒下、エアコン室外機の裏、高速道路や鉄道の橋桁といった、より構造的で人工的な隙間にねぐらを作ります。活動する時間帯や好む空間が微妙にずれているため、空間的・時間的な衝突が少ないのも特徴です。
この結果、都会のドバトは「実質的に天敵がいない安全地帯」で暮らすことになり、人間にギリギリまで近づいても逃げないほど警戒心が極めて薄い個体へと進化・適応しています。都会の天敵たちは、鳩にとって「ただの同居人」に成り下がっているのです。
驚異的な通年繁殖能力を持つドバト

都会の鳩が減らないもう一つの理由は、彼らが持つ「怪物級」とも言える驚異的な繁殖能力と、人間が作り出した都市環境との抜群の相性にあります。多くの野生鳥類は、エサが豊富になる春から初夏にかけての限られた時期にしか繁殖活動を行いません。しかし、ドバトは年中いつでも繁殖が可能な野生鳥類としては極めて異例の生態を持っています。
春から秋のピーク時には5回から7回も産卵を繰り返し、一度に2個の卵を産みます。彼らが冬場でも繁殖できる最大の秘密は、親鳥の食道から分泌される「ピジョンミルク」と呼ばれる非常に栄養価の高い液体にあります。このミルクを雛に与えて育てるため、昆虫や種子などの天然エサが激減する冬季であっても、季節を問わず健康に雛を育て上げることができるのです。
さらに恐ろしいことに、雛を育てながら同時に次の卵を産んで温めるという「並行育児」の習性を持っています。生まれた雛はわずか40日ほどで巣立ち、半年後には次の世代の繁殖を開始します。この爆発的なスパイラルが、都会での爆発的増加を支えています。
都会のインフラは鳩にとっての「超快適パラダイス」
鳩は本来、断崖絶壁の狭くて薄暗い岩棚を好んで営巣します。現代の都市におけるマンションのベランダ、エアコン室外機の裏、太陽光パネルの下、ビル風を防げる隙間は、彼らにとって天敵の侵入を防げる「最高の人工岩棚」そのものです。さらに、冬場でもエアコンの室外機が放つ熱気や都市全体のビル風・排熱によって周囲が暖かく保たれるため、寒冷期でも何不自由なく子育てを継続できてしまいます。
さらに、どれだけフン害や騒音被害をもたらそうとも、彼らは法律によって強固に守られています。「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護管理法)」により、野生鳥類である鳩を許可なく捕獲したり、卵や巣を勝手に破棄したりすることは厳しく禁じられており、これに違反すると罰則(1年以下の懲役または100万円以下の罰金)の対象になります。
ベランダに作られた巣の中に卵や雛がいる場合、自力での勝手な撤去は法律違反となるため、最終的な防除判断や実際の駆除・撤去作業は、専門の自治体許可を持ったプロの対策業者へご相談ください。(参照:e-Gov法令検索『鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律』)
鳩を食べる動物の知見を活かした防除技術
鳩が一度特定の場所を「安全で快適な縄張り」と学習してしまうと、強烈な帰巣本能によって簡単な対策では絶対に追い払えなくなります。天敵の習性を科学的に理解し、効果的なプロの防除技術を導入することが、被害を根本から解決する唯一の道です。
対策に都会のカラスや猫は使えるか

「天敵であるカラスや猫をベランダに引き寄せれば、鳩よけになるのではないか」というアイデアを思いつくかもしれません。しかし、結論からお伝えすると、これは防除対策として全く機能しないばかりか、状況をさらに悪化させる最悪の悪手です。
前述の通り、都会のカラスや猫は生存戦略上、わざわざ生きた鳩を追いかけ回して食べることはしません。仮にベランダにキャットフードや生ゴミなどを置いて彼らを誘引しようものなら、鳩対策になるどころか、集まってきたカラスがベランダを荒らしてさらに強烈なフン尿を撒き散らし、ゴミを食い散らかします。
また、野良猫が住み着くことで、そこが新たな縄張りとなり、強烈な尿臭(スプレー行為)やダニ・ノミの発生、さらには深夜の鳴き声による騒音トラブルなどを引き起こします。結果として「鳩害」に加えて「カラス害」「猫害」のトリプルパンチに悩まされることになります。
さらに、これらの餌付け行為は近隣住民との深刻な確執や管理組合での規約違反トラブルに発展し、法的な責任を問われるリスクさえ孕んでいます。生身の天敵を引き寄せるという自然任せの方法に依存するのではなく、鳩の認知特性や学習能力をターゲットにした、人工的かつ科学的なコントロール技術をスマートに導入する必要があります。
安全で確実な防除を行うためにも、安易な自己判断での天敵誘引は絶対に避け、確実な物理的障壁の構築を最優先に検討すべきです。
天敵模倣グッズの効果と慣れの限界

ホームセンターや100円均一ショップには、ヘビやフクロウ、タカのリアルなプラスチック人形、キラキラ光るCDや反射テープ、あるいは超音波を発生させる機器など、数多くの簡易的な鳩対策グッズが並んでいます。これらは手軽に導入できるため非常に人気がありますが、その効果の実態はどうなのでしょうか。
結論から言うと、これらは、まだ鳩がその場所を自分の縄張りと認識していない、ごく初期の「一時的な立ち寄り段階(被害レベル1)」であれば、一時的な警戒心(新奇恐怖症:ネオフォビア)を刺激して驚かせて追い払う効果を発揮することがあります。しかし、すでに毎日執拗にやってきたり、巣作りを始めたりしているような深刻な被害レベルに達している段階では、全くと言っていいほど効果がありません。
鳩の優れた認知能力と「慣れ(ハビチュエーション)」のメカニズム
鳩は非常に賢く、優れた形状認識能力と学習能力を持っています。彼らは、ベランダに置かれたフクロウやヘビの人形が「数日間、1ミリも動かないこと」「音を発しないこと」「自分に対して実際に何一つ攻撃を仕掛けてこないこと」を、短期間(数日から一週間程度)のうちに完全に見破ってしまいます。
一度でも「これはただの動かない偽物で、安全な障害物だ」と学習(慣れ)した鳩は、その人形の頭や真横に平気で留まり、そこを足場にして再び巣作りを強行します。磁石が鳩の体内磁石を狂わせるという説も科学的な再現性が乏しく、超音波についても鳩の可聴周波数にはほとんど効果がなく、完全に無視されるケースがほとんどです。
このように、静的な天敵模倣グッズには「慣れの限界」が必ず存在します。最初こそ効果があったように見えても、数日後には鳩が戻ってきてしまうのは、彼らの脳が「偽の天敵」のパターンを迅速に学習して安全宣言を出してしまうためなのです。一時しのぎの対策に予算や時間を費やすよりも、最初から「慣れ」が生じない物理的な防除計画にシフトすることが、結果として最もコストパフォーマンスの高い選択肢となります。
物理的に着地を阻止するネットとスパイク

鳩の被害レベルが進行し、休憩だけでなく「ねぐら」や「営巣(巣作り)」に移行してしまった場合、おもちゃや視覚的な威嚇対策では太刀打ちできません。そこからは、鳩の物理的な侵入・着地を構造的に100%不可能にする防除技術が必要になります。プロの現場でも最優先で施工される、極めて信頼性の高い2つの手法が「防鳥ネット」と「スパイク」です。
最も確実な効果を誇るのが「防鳥ネット(ピーコンネットなど)」です。ベランダ全体を覆うように、高耐候性のポリエチレン製ネットを隙間なく張ることで、侵入経路を完全に物理遮断します。鳩のサイズを考慮すると、網目の大きさは30mm〜50mm以下が推奨されます。
1ミリのたるみや、手すり・壁との間に数センチでも隙間があると、鳩は強引に頭を突っ込んで体を滑り込ませて突破してしまいます。そのため、フックや専用固定具を用いてプロの精度できっちりと張り巡らせることが成功の絶対条件です。景観の制限やマンションの規約(外観変更の禁止、避難経路の確保義務など)がないか、事前に管理組合のルールをご確認ください。
また、ネットを全面に張ることが難しい手すりや、エアコンの室外機の上、窓枠の狭い出っ張り(パラペット)などに有効なのが「スパイク(剣山)」です。これは無数の尖ったピンを上向きに並べて固定することで、鳩が物理的に足を下ろすスペースを奪う技術です。
ここで注意すべきは、市販されているプラスチック製や樹脂製の柔らかいスパイクは、鳩が体重をかけて押し潰したり、ピンとピンの間に体を器用に滑り込ませて居座ったりすることがある点です。
さらに最悪の場合、その押し潰したプラスチックピンを土台にして巣作り用の枝を引っ掛けやすくなり、巣作りをサポートしてしまう「逆効果」が生じることもあります。そのため、プロが使用するような金属製(耐久性の高いステンレス製ピンなど)を選択し、隙間なく高密度に敷き詰めるのが成功の秘訣です。
嫌悪学習を促す忌避剤の科学的効果

マンションの景観規制でネットを張りたくない、または構造的にスパイクを設置しにくい美観重視の場所には、化学的・生理的なアプローチである「忌避剤(きひざい)」が活躍します。これは鳩の感覚器官を刺激し、その場所を徹底的に嫌いになってもらう手法です。
忌避剤にはスプレー型、固形型、ジェル型などのバリエーションがありますが、一般家庭のベランダから工場まで幅広く最も効果が高く持続性があるのは、プロも愛用する高粘度の「ジェルタイプ」です。このジェルには、鳩が本能的に嫌う特殊な匂い(天然ハーブや植物抽出成分)や味覚を刺激する成分が調合されています。
さらに、鳩の特殊な視覚(紫外線領域の視覚)において「炎が燃え盛っている」ように見える特殊な光学的視覚刺激効果が施されている高機能な製品(バードフリーなど)も存在します。
鳩がジェルを塗布した場所に着地すると、足の裏や羽毛に高粘度のベタベタした不快な物質がべったりと付着します。鳥類は羽毛の清潔さを保つために「毛づくろい」を頻繁に行う習性があるため、足についた不快物質を嘴で取り除こうとします。
その際、ジェルに含まれる嫌悪成分が直接口に入り、嗅覚・触覚・味覚のトリプルで強烈な不快感を与えます。これにより鳩は、「この場所に行くと、恐ろしくベタベタして気持ちの悪い目に遭う」という強烈な嫌悪学習(条件付け)を起こします。この学習効果は非常に強力で、ジェルが物理的に乾燥して効力を失わない限り、約1年から数年間にわたりそのエリアへの再飛来を強力に防ぎ続けます。
ただし、忌避剤を塗布する前には、既存の鳩のフン(鳩にとっての「ここは安全である」という安全宣言マーク)を完全に清掃し、高濃度アルコール等で徹底的に消毒・消臭しておく必要があります。フンの匂いが残っていると、忌避剤の不快感を上回る帰巣本能で再び戻ってこようとするため、事前の丁寧な下地処理が効果を最大化する鍵となります。
鷹匠プログラムによる本物の生物威嚇

一戸建てやマンションのベランダといった個人規模の対策とは異なり、工場、大規模な物流倉庫、大型商業施設の立体駐車場、メガソーラー発電施設、あるいは空港の滑走路周辺など、防鳥ネットの施工が物理的・面積的に不可能な広大な空間において、究極の最終兵器として導入されるのが「鷹匠(たかじょう)プログラム」です。
これは、高度な専門訓練を受けた本物の猛禽類(ハヤブサやハリスホークなど)とプロの鷹匠が現場に赴き、定期的に対象エリア内で放鳥・旋回を行わせることで、害鳥を物理的かつ精神的に追放する最先端の総合防除技術です。鳩に対して「ここには本物の獰猛な天敵が常に目を光らせて潜んでいる。一歩でも立ち入れば即座に仕留められて命を落とす」という、遺伝子レベルに刻まれた絶対的な生存恐怖をダイレクトに植え付けます。
人工的な威嚇グッズや偽の人形とは異なり、実際に生きて羽ばたき、時には威嚇行動をとる本物の天敵の迫力の前には、鳩の慣れは一切通用しません。数回のプログラムを実施するだけで、鳩はそのエリア全体を「絶対に立ち入ってはならない危険地帯」として学習し、二度と近づかなくなります。
音や死骸、強力な化学薬品、ゴミなどの二次被害を現場に残さないため、環境負荷が極めて低いエコフレンドリーな手法としても世界中で高く評価されています。
鷹匠プログラムのコストと実務上の注意点
生き物を使った防除であるため、一過性の単発放鳥だけでは、鷹匠のグループが立ち去った数日後に鳩が「天敵がいなくなった」と判断して戻ってきてしまうことがあります。完全に縄張りを諦めさせるためには、初期段階で集中的に週に複数回の放鳥を行い、その後もメンテナンスとして定期的な巡回を行う長期的な計画が不可欠です。
また、カラスの繁殖期(4月〜7月)などは、カラスの集団が猛禽類に逆襲(モビング)を仕掛けてくる危険性があるため、実施時期や天候の選定、周辺環境の事前調査が非常に重要です。費用は1回の出張セットで数十万円、年間のプロジェクト契約では数百万円に達することもあるため、基本的には大規模施設や産業向けの超ハイコストかつハイエンドな対策手法となります。
鳩を食べる動物の理解から始める鳥害防除

本記事の総括として、都会における鳩の異常な繁殖とそれに伴う深刻なフン尿・騒音被害を防ぐための真の鍵は、生物の生態学的なルールと、人間が作り出した不自然な都市環境とのギャップを科学的に正しく捉え直すことにあります。
野生の環境下における鳩は、ハヤブサやオオタカといった命を脅かす猛禽類の天敵を本能的に恐れて、常に張り詰めた緊張感の中で暮らしています。しかし、私たちが暮らす都会の市街地においては、天敵であるカラスや猫が「生ゴミの飽和」によって能動的な狩猟行動を放棄し、さらに建物自体が外敵の侵入を許さない「安全なシェルター(人工の岩棚)」として機能してしまっています。
この、いわば「天敵がいないバグのようなチート環境」の中で、100円均一ショップの手軽なおもちゃの人形や反射テープ、キラキラ光るCDなどをベランダに吊るしたところで、鳩の持つ高度な視覚認知システムと生き残るための凄まじい学習能力によって、わずか数日で偽物だと見破られ、完全にシカトされてしまうのは当然の帰結なのです。
ベランダでの不吉な突発的死骸トラブルに遭遇して精神的な恐怖を感じているにせよ、長年悩まされている頑固な飛来対策を根本から解決したいと望んでいるにせよ、最も重要なアプローチはただ一つです。
それは、「鳩にとってそこが絶対に安全ではない、きわめて居心地の悪い物理的・感覚的障壁に満ちたエリアである」という事実を、防鳥ネットやプロ仕様の金属製スパイク、そして嫌悪学習を誘導する特殊な忌避剤を用いて、彼らの本能にダイレクトに教育し直すことです。
被害の進行レベル(休憩・待機・ねぐら・営巣)や、ベランダ・建物の物理的な構造に合わせた科学的で無駄のない対策を最適に選択しましょう。また、自力での高所作業に伴う転落リスクや、法律(鳥獣保護管理法)に抵触する恐れ、さらには乾燥したフンが舞い上がることによる深刻な病原体の吸入リスク(感染症リスク)を未然に避けるためにも、少しでも自力での対処が困難・不安だと感じた場合は、決して無理をせず、信頼できるプロの鳥獣害対策専門業者へ早期に相談し、安全かつ完璧な施工を依頼することを強くおすすめします。
